大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和60年(ワ)1934号 判決 1987年1月28日

原告 熊谷昭敏

右法定代理人親権者父 熊谷勇造

右法定代理人親権者母 熊谷公代

右訴訟代理人弁護士 野澤渦

被告 神戸市

右代表者交通事業管理者 坪田健児

右訴訟代理人弁護士 中嶋徹

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告は原告に対し、金一五四万一九六〇円とうち金一二九万一九六〇円に対する昭和五九年七月二日から、うち金二五万円に対しては一審判決確定の日の翌日から、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告(請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  原告(請求原因)

1  交通事故の発生

原告は、昭和五九年七月一日午後三時二五分ころ、神戸市灘区六甲山町一里山一番地、奥摩耶ドライブウェイカーブNo.一〇において自動二輪車(神戸む四〇九二号、以下「原告車両」という。)を運転走行中、反対車線を対向進行中の神戸市職員訴外進藤武司(以下「進藤」という。)が運転する神戸市バス(神戸二二か二九八九号、以下「被告バス」という。)との衝突を回避するため急制動の措置をとり、ために原告はその場に転倒し受傷した。

2  責任原因

(一) 被告は被告バスを本件事故当時自己のために運行の用に供していたものである。

(二) 本件事故の発生について、進藤には前方不注視、安全運転義務違反の過失がある。すなわち、進藤は、被告バスを運転して本件事故現場カーブNo.一〇を右まわりに進行するに際し、進路前方のカーブミラーの注視をせず、かつセンターラインを約五〇センチメートル越えて原告車両進路に侵入して対向車両の安全走行を確保すべき注意義務に違反した過失により、本件事故を惹起したものであるところ、進藤は被告市の市バス運転手であり市バス運転業務に従事中本件事故を惹起したものである。

よって、被告は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条並びに民法七一五条により本件事故により原告が蒙った損害を賠償する責任がある。

3  受傷及び治療経過

本件事故により、原告は両上下肢擦過打撲傷の傷害を負い、昭和五九年七月二日から同月二三日まで(実治療日数七日間)村田医院に通院して治療を受けた。

4  損害

(一) 治療費 金三七一〇円

(二) 実母の付添看護料 金一〇万五四〇〇円

七月二日から一七日間分

(三) 逸失利益 金二三万〇四〇〇円

原告は、本件事故による受傷のため勤務先CS技研工業株式会社への出社が昭和五九年七月二日から同年八月三一日まで不能となった。右合計四八日間(時間給六〇〇円、一日八時間)の逸失利益は次の計算式のとおり、金二三万〇四〇〇円となる。

六〇〇(円)×八(時間)×四八(日)=二三万〇四〇〇円

(四) 原告車両全損代金 金五九万二五〇〇円

但し、バスの下敷になり全壊した原告車両の損害金である。

(五) 原告車両一年間分自賠責・任意保険料 金一八万七六八〇円

原告車両全壊により同車両の自賠責・任意保険料が無駄となり、原告は、新車について各保険料として金一八万七六八〇円をあらたに支払うことを余儀なくされた。

(六) 交通費(タクシー代) 金一万三二一〇円

原告は、本件訴訟を提起するため自宅から灘警察署、法律事務所等へタクシーをもって行き来した。

(七) 洋服代 金一万円

本件事故により原告の着用していた洋服が破損し使用不能となったが、その代金は金一万円である。

(八) 慰藉料 金一五万円

(九) 弁護士費用 金二五万円

よって、原告は被告に対し、右4(一)ないし4(九)記載の損害金合計金一五四万二九〇〇円と、うち弁護士費用金二五万円については一審判決確定の日の翌日から、その余については不法行為の日の翌日である昭和五九年七月二日から、いずれも完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告(請求原因に対する認否)

1  請求原因1の事実中、原告主張の日時・場所において交通事故が発生し原告が受傷したことは認める。

2  同2(一)の事実は認める。同2(二)の事実は否認する。

3  同3の事実は知らない。

4  同4は争う。

三  被告(抗弁)

1  木件事故現場の道路幅員は北行車線(被告バス進行車線)は約五メートル、南行車線(原告車両進行車線)は約四・八メートルで原告車両と被告バスが接触した地点付近から東方向へ大きくカーブしている。被告バスは時速約一〇キロメートルの速度で自車線を北進して同所付近にさしかかったところ、時速約五〇キロメートルの速度で対向車線を進行してきた原告車両が速度の出しすぎのためか、運転操作の未熟のためか、あるいは急制動をかけたためか自車を自車線内で転倒させて、自らは車から投げだされて道路との接触で負傷し、原告車両のみがセンターラインを越えて被告バスの右側後部に衝突した。右地点は被告バス進行車線センターラインの内側約八〇センチメートルの場所であった。

以上のとおり、本件事故発生につき進藤に何らの過失はなく、かつ被告バスに構造上の欠陥又は機能の障害はなかったのであるから、被告に損害賠償義務はない。

四  原告(抗弁に対する認否)

否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の事実中、原告主張の日時・場所において交通事故が発生し原告が受傷したことは当事者間に争いがない。

二  責任原因並びに免責事由の有無

1  請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがないから、被告は自賠法三条一項但書所定の免責事由を主張立証しないかぎり、同項本文の規定により本件事故により原告が被った損害(但し、人的損害)を賠償する責任がある。

2  そこで抗弁について検討する。

《証拠省略》によれば、次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(一)  本件事故現場である神戸市灘区六甲山町中一里山一番地奥摩耶ドライブウェイ・カーブNo.一〇付近道路は、幅員北行車線(奥摩耶から六甲山牧場に至る通行車線で上り勾配である。)五・〇メートル、南行車線(右反対方向車線。下り勾配である。)四・八メートルの平坦な舗装道路であり、北行車線からみて現場付近は大きく右(東)方向にカーブしている。

(二)  進藤は、当日乗客約六名を乗車させて被告バス(四〇系統・運転区間阪急六甲奥摩耶間)を運転し、右道路北行車線を時速約二〇キロメートルで進行し、右カーブにさしかかって時速約一五ないし一〇キロメートルに減速して右カーブを外大回りで右車線にそって進行した。

(三)  原告は昭和五九年四月に自動二輪免許(二輪免許)を取得したものであるが、本件事故当日、自動二輪車である原告車両を運転し、右道路南行車線を進行し、右カーブにさしかかって右車線のセンターライン寄りを少なくとも時速約四〇キロメートルの速度で進行しようとした際、前方約一〇メートルの地点に被告バスを発見しあわてて急制動の措置をとったところ、スリップして左側に車もろとも転倒し、そのまま約五メートル横すべりしながら被告バス右側後部付近(右後輪よりバス前方約一・五メートル付近)に衝突し、ために原告車両は前部が大破したが、原告はほとんど被告バスと接触することなく路上に投げだされたため、道路との接触により両上下肢擦過打撲傷の傷害を負うにとどまった。

(四)  被告バスと原告車両の衝突地点はセンターラインより北行車線側約八〇センチメートルの位置であった。

3  原告は被告バスは、本件事故現場のカーブを走行するに際し、センターラインを約五〇センチメートル南行車線内にはみだすという危険な走行をしたため本件事故が発生したと主張し、証人田代伸也及び原告本人の各供述中にはこれにそう部分があるが、右各供述は、被告バスの前部、後部ともにセンターラインを越していたとする部分など首肯しえない部分が多いうえ、《証拠省略》によれば、原告車両との衝突直後被告バスは停止したこと、進藤はただちに無線で被告市の事故処理担当者である小谷輝男(以下「小谷」という。)に事故の発生を連絡するとともに、その後一時半後に小谷が現場に到着するまで被告バスを動かさず(乗客は後続の市バスに乗替え。)、自ら通行他車両の誘導をしていたこと、小谷がセンターラインから市バスの衝突痕までの距離をメジャーをあてて計測した結果は約八〇センチメートルであったこと、右計測結果の確認を求められた原告は特段異議を述べなかったこと、その後小谷、進藤及び原告の三名は交番所で本件事故の届出をしたが、その際、小谷が警察官に対し衝突地点について前記計測結果のとおりの説明をしたのに対し、原告は特段異議を述べなかったことが認められるから、右各事実に照らすと、当時原告が満一六歳の少年であって自らの主張を明確に表現できなかった可能性を考慮に入れても、なお、前記証人田代伸也及び原告本人の各供述部分は採用できない。そして、他に右1認定を左右するに足りる証拠はない。

4  車両等の運転者は道路のまがりかど付近及び勾配の急な下り坂を通行する際には徐行すべき義務をおうところ(道路交通法四二条二号)、右1認定のとおり、原告は下り坂の本件事故現場のカーブを徐行することなく少なくとも時速約四〇キロメートルの速度で、しかも自車車線内を内側小回りすることなく同車線のややセンターライン寄りを漫然と進行し、正常に右カーブを対向進行してきた被告バスを前方約一〇メートルの地点に発見してあわてて急制動の措置をとったためスリップして転倒し、そのまま横滑りして対向車線を越して被告バスに衝突したものであるから、本件事故は原告の右過失に基づき発生したものというべきである。他方、被告バスは右カーブを時速約一〇ないし一五キロメートルの速度で外大回りの方法で進行していたのであるから、その走行には過失は存在せず、かつ、原告主張のとおり、仮にカーブミラーをさらに注視したとしても、被告バスの運転者である進藤には事故の発生を回避する手だてはなかったものと認められる。

そして、被告バスに構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことについては、原告はこれを明らかに争わないから、自白したものとみなす。

5  請求原因2(二)の事実は、右認定のとおり、本件全証拠によるも認めるに足らない。

三  以上の検討によれば、原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉森研二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例